せめて言葉を残してゆけ

[フリウル / 第2話軸 / 大戦時代は戦友だった]


 抜け目がなくて薄情。あいつのことを聞かれて自分の口から出た言葉に、自分自身で驚いた。
 抜け目がないのは確かにそうだ。大戦時代、あいつが敵を討ち漏らすところは見たことがない。その強さは、欠かさない日々の鍛錬に裏打ちされたものだった。
 だが薄情というのはどうだ。あいつがどれだけ家族を大切に思っていたか俺は知っている。大切なものを守るために妖精兵になったのだと語ったあいつのまっすぐな瞳を知っている。
 ジェットを喪ったあの戦場で、あいつが俺を助けようと駆け寄ってきていたことも、その時の必死な呼び声も覚えている。
 薄情。あいつのどこが、薄情なんだ。
 そう思う一方で、俺の手を振り払い去っていった後ろ姿が目に浮かぶ。
 あれから九年。お前は今まで何をしていた。
 どうしてマフィアなんかに与している。そうなる前にどうして──どうして俺に何も言ってくれなかったんだ。

 追いかけた先の広場に人工妖精が三体。あいつの姿はない。しかしまだ逃げてはいない。予想ではなく確信だ。抜け目のないあいつが、このまま消えるわけがない。
 向かってくる人工妖精をいなして、叫ぶ。
「出てきやがれ! ウルフラン!」
 返事はない。それがどうした。
 今度こそはあの時のように、ただ黙って見送る真似はしない。してたまるか。絶対に。


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第2話フリーのウルフラン評、何度聞いても「お前、よくまあそんなことを……」という感じなんですがあれはやっぱり終戦後、ウルフランが自分に何も言わずに消えたことを根に持っての発言だと思うんですよ(でもその自覚はまだないかもしれない……) フリー・アンダーバー、基本的に善の人間であるにも関わらずウルフラン・ロウに対してだけはそういうところがある……