逸聞

[フリウル / レドラッド軍時代 / 家族の話]


「お前の子供、喋るようになったのか」
「いや、まだだ」
「へぇ」
「……」
 訓練合間の休憩時間だった。会話はそこで途切れたが、ウルフランからの視線を感じフリーは首を傾げた。
「なんだよ」
「お前は俺の家族についてよく尋ねてくるが、聞いていて楽しいのか」
「そりゃあ……」
 返答に困り、フリーは言い淀んだ。言い淀んだあとで、すぐに頷いておけばよかったと後悔するが遅い。
 楽しいわけではなかった。むしろウルフランが家族について話すたび、フリーの胸は苦しくなる。言葉数は少なくとも、話しぶりや表情でウルフランがいかに家族を大切に思っているのか伝わってくる。伝わるほど、フリーの胸の中にある重苦しさは増していく。
 それでもフリーがウルフランに彼の家族の話を振ってしまうのは、普段は冷たささえ感じる整った顔がわずかに和らぐところを見たいからだ。ほんの少し穏やかになる声を聞きたいと思ってしまうからだ。
 しかし、そんなことを馬鹿正直に言えるわけがない。
「……もしかして、あまり聞かれたくなかったか」
「そんなことはないが」
「じゃあ、いいだろ。ほら、そろそろ一勝負しようぜ。今日は勝つからな」
「お前が俺に、か。おもしろい冗談だ」
「んだと、てめえ」
 結局、フリーははぐらかした。わざとらしい誤魔化しに気がついているのかいないのか、ウルフランはそれ以上追及してこなかった。
 重ねて問われなかったことに安堵しながらも、こちらにあまり興味がないような様子に一抹の寂しさを覚える。そんな自分勝手な思いを消し去るように、フリーは強く剣を握りしめた。


―――
フリーがウルフランの家族に結構詳しい問題 ウルフラン、自ら進んで家族の話をするタイプではないのでフリーから話を振っていたんだろうな そして家族のことを尋ねられてウルフランが素直に答えていたのは、フリーとジェット相手だけだったと思うんですよ