どうにもならないほど

[フリウル / 本編終了後 / くっついて間もない]


 ふ、と小さく笑う気配にフリーが顔を上げると、枕に頭を預けているウルフランと目が合った。灯りに照らされた灰青の瞳に宿る光はやわらかく、形のよい口元はゆるく弧を描いている。
 穏やかに微笑むウルフランが、そこにいる。
 ああ、もう。なんて顔してんだよ。
 見とれていた自分に気がつき、フリーは悔しくなった。ウルフランが綺麗なのは今に始まったことではないし、フリーがウルフランに見とれてしまった回数はそれこそ数えきれない。だが、これから身体を重ねようという時に浮かべるにはウルフランの表情はあまりに穏やかだ。要は、空気が読めていない表情だ。
 それでも、やわらかく微笑む戦友にフリーは見とれてしまう。悔しくないわけがない。
「なに笑ってんだ」
 だから問いかけもついぶっきらぼうなものになるが、ウルフランは気を悪くした様子もなくフリーを見つめたままわずかに首を傾けた。金の髪がさらりと揺れる。
「相変わらず、丁寧に触れるものだと思ってな」
「あ?」
「お前には俺が繊細なガラス細工にでも見えているのか」
「んなわけあるか」
 フリーは即座に否定した。フリーに比べれば細身でも、ウルフランも数多の死線を潜り抜けた妖精兵だ。
 今こうして触れている戦友の身体が見た目以上に頑丈で強靭なことを、フリーはとっくに理解している。
「では、そうおそるおそる触れなくてもいいだろう」
「……そりゃあ」
 不思議そうに言われ、フリーは口ごもった。尋ねた側だったはずが、いつのまにか立場が反対になっている。
 口ごもったのは、答えがないからではない。
 ウルフランに触れる時、できる限り丁寧に触れたいと思うのも、いつだって緊張しているのも、自分なんかが本当に触れていいのかと思いながら、それでも手を伸ばしてしまうのも。答えはずっとフリーの中にある。すぐに答えられなかったのは、気恥ずかしさによるものだ。
 だが、やがて腹を括ってフリーは口を開いた。ウルフランの視線に根負けしたせいもあったが、自分の思いを言葉にして伝えたかった。
 ウルフランに伝えられることを増やしていきたいと、フリーは近頃思っている。気恥ずかしさが消えたわけではないので、いざ口を開いても、ぼそぼそと呟くものにはなってしまったが。
「……好きな相手には、優しくしたいだろ」
「そうか」
「そうだよ」
 フリーの言葉の意味を考えているのか、ウルフランはゆっくりとまばたいた。そうか、ともう一度呟く。灯りに照らされた頬が赤く見えるのは、錯覚だろうか。
 フリーがそれを確かめる前に伸びたウルフランの手が、とっくに耳まで赤くなっているフリーの頭を撫でた。
「そうだな」
 その手つきは、優しかった。


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どうにもならないほどウルフランが好きなフリー、とウルフラン くっついたあとのウルフランは結構笑うしフリーはそのたびにドキドキする フリウル、ラブなんだよな~~~