内密

[フリウル / 本編終了後 / セルジュから見た二人]


 ほーんと、わかりやすいよねえ。硬いソファに寝転びながら、セルジュは呆れ混じりに小さなあくびをひとつした。寝心地がいいとはお世辞にも言えないが、ドロテア第一部隊室が見渡せるその場所をセルジュは気に入っている。
 部屋にはセルジュのほかに三人の隊員がいた。フリーとロバート、そしてウルフランだ。ちなみにウルフランは正規の隊員ではないのだが、そんなことはセルジュにとって些細なことである。
 神獣にまつわる事件からしばらくが経ったある日、ネイン局長が見覚えのある男を連れてきて「本日からドロテアの准隊員となったウルフラン・ロウだ」と紹介した時はもちろん驚いたが、三か月も経てば慣れたものだ。
 それはセルジュだけでなく、多くの隊員がそうだ。
 イレギュラーな出来事が起きることの多いドロテアには、順応性の高い人間が揃っている。
 中でも特にウルフランと馴染んでいるのはロバート・チェイスだ。ウルフランは正規の隊員ではないためドロテアに与えられた権限をほとんど行使できず、大っぴらな任務には携わりづらい。そのため密かに進める必要がある捜査や情報収集の任に就くことになり、ロバートと組む場面が多かったのだ。これまで第一部隊で情報収集等を主に担当していたのはロバート一人だけだったので、二人になって効率はぐんと上がったようだ。ウルフランもいるから最近は仕事がはかどってありがたいよ、とは先日の飲み会でのロバートの談である。
 今日も捜査の打ち合わせをしているらしく、ロバートとウルフランは机に資料を広げて話し合っている。フリーは二人と違う席で書類仕事をしているが、いつもに比べてペンの動きがずっと鈍い。時々視線も話し合う二人へ向いている。
 わかりやすいよねえ、とセルジュは思う。気を取られているのがまるわかりだ。そっちにばかり意識が向いているから、早々に仕事を放棄してサボりはじめたセルジュに対する小言も飛んでこない。
 ウルフランが近くにいると、フリーは明らかに挙動がおかしい。身元引受人として一緒に暮らしているくせに、もしかして家でもこういう感じなのだろうか。この様子だと、その可能性も捨てきれない。
 わかりやすい。こんなにわかりやすいのに、一連の事件の間、フリーはウルフランに対する思いをセルジュに悟らせなかった。
 己は他人の機微に聡いほうだとセルジュは自負していたし、そう短くない付き合いであるフリーの人となりは理解しているつもりだった。それがまさか、こんなに大きな隠しごとがあったとは。
 ディプレからドロテアに戻る途中、あの人知り合いだったのと尋ねた際に「大戦時代の戦友だ」の一言で終わらせたフリーを思い出すと呆れてしまう。まったく、どの口が言うんだか。
 女性慣れしていないわけでもなさそうなのに、仕事終わりやせっかくの休日も遊びに出ることはなく、軽く酒を飲むか鍛練するか寝ているかしているフリーは、特別な相手をつくる気がないのだとセルジュは思っていた。
 何のことはない。フリーの特別な存在はもうとっくに、彼の心の中にずっといたということだ。
 セルジュにとってフリーは恩人であり、尊敬する先輩だ。面と向かって伝えはしないが、幸せになってほしいと思っている。
 だから、ウルフランが隣にいて挙動不審になりつつも幸せそうなフリーの様子はセルジュも喜ばしく感じている。しかし同時に、これまで悟らせなかったフリーに対するおもしろくなさも間違いなくある。
 その結果、セルジュはウルフランに関するあれこれで、何かとフリーに茶々を入れてしまうのだ。
 そういうのはよくないですよとクラーラには再三注意されているが、仕方ない。言いたいものは言いたいのだ。
 幸い、今はクラーラもいない。
「あのさあ、先輩──」
 どのようにからかおうか考えながら、セルジュはフリーに声をかけた。


―――
好き(恋愛的な意味でなくても)な相手ほど苛めたいタイプなんだよなセルジュ……ちなみにフリウルはまだくっついていない 本編中ウルフランへの感情を他人に開示していないフリー、いいよな……と思っている