全てを捧げる朝

[フリウル / 本編終了後 / 冬の早朝]


 吐く息が白い。吸い込んだ空気の冷たさで、肺まで凍りそうな寒さの朝だ。
 こんな日に限って早番なのだからツイていない、と心の中でぼやいたフリーだが、傍らの存在にまあこいつが一緒なだけマシかと思いなおす。
 冬の早朝、太陽が顔を出すのはまだ先だ。辺りは薄暗いどころか暗い。それでも、隣を歩くウルフランの金髪がフリーの目には輝いて見えた。
 今に限ったことではない。フリーにとってウルフランはいつだって輝いている。きっと、出会った時からそうだった。
「どうした」
 石畳を歩く二人分の靴音に静かな声が重なる。横目で見ていたことがばれたようだ。フリーは無意識に右手で首の後ろを押さえると、いや、と誤魔化すように呟いた。
「寒みいな、と思ってよ」
「そうだな」
 頷いたウルフランがフリーを見た。整った顔は澄ましていて、何を考えているのかまったく読めない。
 そのままじっと見つめられ、フリーがたじろぎそうになった矢先にウルフランが口を開く。
「鼻の先が赤くなっている」
 フリーは転びかけた。道が凍っていたら危なかった。
 真面目な顔して考えていたのはそれかよ。呆れた声でフリーは返した。
「お前も赤いぞ」
「寒いからな」
 そう言ってウルフランが小さく笑った。楽しげな戦友の姿にフリーの胸がどきりと高鳴る。寒ささえ一瞬忘れそうになるのだから、現金なものだ。
 そのまま続いた会話も、なんとも中身のない雑談だ。だが、それでいい。それがいい。笑うウルフランの隣でフリーは思う。
 これからもこうして、伴にありたい。

 ドロテア本部まであと少しというところで、ようやく日が昇ってくる。朝日に照らされ明るくなるロンダキアの街並みが、普段以上に美しくフリーには見えた。


―――
短文ログ本の書き下ろしでした フリウル、末永く伴にあってくれ