めくるめく?

[フリウル / 本編終了後 / 休日の朝]


 特別に心掛けているわけではないのだが、フリーは毎朝決まった時間に起きている。もちろん早番の日は普段よりも早く起きるし、よっぽどの激務明けには昼近くまで眠りこけることもあるが、そういう例外を除けば仕事がある日だろうとない日だろうと目が覚める時間は自然と同じだ。
 だから今朝もフリーはとっくに起きている。起きてはいるが、ベッドから身体を起こせずにいる。
(……長ぇ睫毛)
 間近にある寝顔を見ながら心の中で呟く。その整った容姿の持ち主であるウルフランこそが、フリーをベッドにとどめている理由だった。すっかり目覚めているフリーとは違い、ウルフランは今も眠りの中だ。
 これはかなり珍しいことだった。普段のウルフランはフリーが起きれば間もないうちに目覚めるか、なんならフリーが起きた時にはすでにベッドを抜け出している。こうして眠ったままでいるのは本当に珍しい。もしや具合が悪いのかと一瞬不安がよぎったが、表情を見る限りそれはなさそうだ。
 幸いにして今日は二人とも休みだ。気持ちよく眠っているのならわざわざ起こす必要もない。別に自分だけベッドを離れてもいいのだが、気配に敏感なウルフランを起こさない自信がフリーにはなかった。かといって二度寝するほどの眠気もないので、フリーはウルフランの寝顔を見つめている。
 綺麗な顔だ。何度思ったかわからないことを改めて思う。それだけに額の傷痕が目立つ。ついてから数年が経ってもくっきりと残った傷痕は、誰であろうフリーがつけたものだ。そのことを意識するたびに覚えていた罪悪感は、消えはしないまでも今は以前より薄らいでいる。
──箔がついたと思わないか。
 いつか、悪戯っぽく笑ったウルフランがそう言ったから。その傷痕におそるおそる触れた時、灰青の瞳を心地よさそうに細めたから。
 触れたい、と思った。同じベッドに入っていながら、二人の身体はどこも触れていない。少し前にベッドを新調して、大きなサイズにしたことが仇となっていた。
 フリーはそっとウルフランに手を伸ばした。だが、触れる直前でその手を止める。代わりに、眉間にしわが寄った。
「……おい」
 フリーの低い呼びかけに、切れ長の瞼がゆっくりと開いた。現れた灰青の瞳は、楽しげな光を宿している。
「触れてくれないのか。残念だ」
「残念だ、じゃねえ。お前、最初から起きてただろ」
 寝起きとは思えないほどはっきりしたウルフランの声色に、フリーは確信を強めた。一緒になってから知ったことだが、ウルフランには案外こういうところがあり、フリーをたびたび翻弄してくる。
 しかし嘘をついて誤魔化すようなことまではしないので、フリーの追及にウルフランは素直に頷いた。
「たまには、ゆっくりしてもいいかと思ってな」
 このところ忙しかっただろう、お前も。
 そう言われると、フリーは二の句が継げなくなった。
 激務とまではいかなくとも最近のフリーが忙しかったのは事実で、一段落ついたのは昨日のことだ。あまりからかうなよと言いたかったはずが、その言葉もおもしろくなかった気分もすっかり消え失せる。
 ウルフランがこちらの身を案じてくれていたことが、ただこそばゆい。
 触れたい、と思った。先程よりも、もっと強く。
「……ウルフ。抱きしめていいか」
 尋ねれば、ウルフランは何を今さらという顔をした。それからやわらかく微笑むと、腕を開く。
「わざわざ問う必要はないと、いつも言っているだろう」
 諭す言葉が甘く響くのを聞きながら、フリーはウルフランを抱きしめた。
 触れた温度は心地よい。どうにも離れがたく思っていると「お前の体温は落ち着くな」と呟く声が耳に届いて、今日はずっとこのままでもいいかもなとフリーは目を閉じた。


―――
成立後のフリウルはマジでバカップルだしウルフランは案外小悪魔だしフリーは自分がつけられた傷はまったく気にしていないくせに自分がつけた傷はめちゃくちゃ気にしている男だと思っています 何が言いたいかというとフリウルって……最高!!!ということですね……(まとまってねーよ)