[フリウル / レドラッド軍時代 / ウルフラン結婚前]
フリー・アンダーバーにとって、ウルフラン・ロウは相変わらずすかした野郎である。
同じ妖精兵として日々を過ごし、人となりがそれなりにわかった今でもその印象は変わらない。何せウルフランはそっけない。世間話くらいはする間柄になったはずなのに、距離が縮まった気はまったくしない。声をかけるのは大体フリーのほうで、ウルフランから話しかけてきた回数は片手で足りる。その貴重な数回も業務連絡のためで、まるで自分だけが話をしたいようでフリーはおもしろくない。おもしろくないのだが、「お前、俺と喋りたくないのかよ」と聞くのも子供のようだし、もしも肯定されたらどういう顔をすればいいのかわからないのでフリーはその言葉を飲み込んでいる。
ウルフランは寝食以外のほとんどを鍛練に費やしている男だ。積み重ねた時間は嘘をつかない。年が近い者の中でウルフランの強さは頭一つ抜けていて、定期的に行われる模擬戦でもフリーはなかなかウルフランに勝てずにいる。誰に負けても悔しいが、フリーはウルフランに負けるのが一番悔しい。フリーとて鍛練は怠っていないため同期の中では強いほうだ。しかし、二つ年上の戦友はさらに先を行っている。
先を行くといえばジェットの強さも遥か彼方だが、さすがに彼方すぎて悔しさよりも尊敬の念が勝る。それにジェットは模擬戦のあと、さっきの一太刀はよかったとか踏み込みはもう少し深くしたほうがいいとか褒めてもくれるし助言もくれる。そういう面倒見の良さもフリーがジェットを兄貴分と慕う理由だ。
一方のウルフランときたら、試合後の言葉どころか反応すらない。フリーに勝っても喜びもせず、当然だという態度でいる。悔しがっているフリーのことも、涼しい顔で一瞥するだけだ。
まあ、百歩譲って、勝った時の態度はそれでいい。
先日の模擬戦でフリーはウルフランに勝った。久しぶりの勝利でフリーは大層嬉しかった。そして、ウルフランがどういう反応をするのか気になった。
すかしたこいつでも、さすがに悔しそうな顔くらいはするんじゃないか。そう思って相手を見たが、期待はすぐに裏切られた。ウルフランは何も変わらなかった。
自らが勝利した時とまったく同じ平静さで模擬刀を鞘に収めると、静かな瞳で見つめ返してくる。その落ち着きようは、フリーの喜びに水を差すには充分だった。
「……かわいくねえ」
「お前にかわいいと思われる必要はない」
つい呟くとすげない言葉が返ってきて、声を荒げかけたフリーを間に入ったジェットが止めたのでその場はそこまでになったが、今思い返してもおもしろくない気分が蘇ってくる。
やはりフリーにとってウルフランはすかした野郎で、一緒にいて楽しい相手ではまったくない。
それに最近、ウルフランの整った顔を見ていると、フリーはどこか据わりが悪い気持ちになって落ち着かなくなる。今まで生きてきた中で、一度も感じたことがない居心地の悪さだ。
だからウルフランといるよりもほかの相手、特に尊敬するジェットといたほうが間違いなく楽しいし、自分のためにもなる。
わかっている。ちゃんとわかっているのだが、今日もフリーの足が向かう先は決まっている。訓練場を覗くと、いつもと変わらず鍛錬に励むウルフランの姿がある。
流れるような無駄のない動きは、先日の模擬戦よりも洗練されている。またしばらく、フリーはウルフランに勝てないだろう。
本当、かわいくねえ奴。心の中で呟いて、自らも鍛練に励むべく、フリーは訓練場に足を一歩踏み入れた。
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フリー16歳ウルフラン18歳辺り 無自覚片想い青少年フリー・アンダーバーくん……